日本リヒテンシュタイン協会
Japanisch-Liechtensteinische Gesellschaft

 

世界の切手収集家を魅了するミニ国家の切手(8)

1960年代から80年代に掛けての華麗な切手群

 1960年代から80年代は切手ブームの後期に当っており、世界各国で多色刷のグラビア切手が濫造乱発された時代である。リヒテンシュタインでもこの時期キラ星のような華麗な切手が発行された。そうした切手の中から代表的なものを抜粋して紹介しよう。

 先ず上に採り上げたのは1961年から63年に掛けて数次に亘って発行された宮廷詩人シリーズである。12世紀から14世紀のドイツ語圏における叙情詩と恋愛歌曲はミンネザンク(愛の歌)と呼ばれ、それらの作り手や歌い手はミンネザンガー(宮廷詩人)と呼ばれていた。彼らの詩歌を収録したマネッセ写本には、彼らを描いた細密画が残されており、それを切手に再現したものだ。この切手は非常な人気を呼び、世界各国から注文が殺到したと言う。

 侯爵家が有する美術品のコレクションは1400点に及ぶ絵画に止まらず数万点と言われる工芸品が含まれる。そうしたコレクションの一部が多色グラビア印刷の力で切手に再現された。世界一と謳われるクールボアジェ社の力量が余す所なく発揮されている。1973年にはカップ類、1974年は東洋の陶器類が意匠となった。

 2004年にオープンしたウィーンのリヒテンシュタイン美術館には、クンストカンマーと呼ばれる部屋がある。欧州の君侯王家の人達は高価で珍しいだけでなく、時には奇妙な物まで蒐集して、それらを一室に置いていたと言う。そうした部屋をKunstkammerと言うのであるが、集められた‘美と技と匠’を極めた事物そのものを呼称する言葉ともなった。

 1973年と1974年にKleinfauna(小さな野生生物)と題して発行された切手の一部を上にご覧に入れる。上段左からマウンテンイモリ、ヨーロッパクサリ蛇、オジロニセヒョウモンモドキ、下段左からキツツキ、ビッグブラザーバード、アマガエルである。両生類や爬虫類を図案にした切手は日本人には馴染みが少ないかも知れないが、絶滅にひんした種の保護と言う立場に立って、欧米では盛んに発行される。これらもその一つと言える。

 Tierkreiszeichen(黄道十二宮)は欧州でも人気がある。リヒテンシュタインでは1976年9月から4種類ずつ発行して、1978年9月の第3次で12宮を全て揃えた。星を線で繋いで星座を描き、イメージ図を添えるタイプの切手をよく見掛けるが、リヒテンシュタインでは、星座を無視して十二宮のイメージ図を中心に扱ってデザインも配色も非常にカラフルなものに仕上げている。これはこれで面白い。説明しなくても、図案を見れば、どの宮であるかはお判りとは思うが、念の為に、上の左端から牡牛座(金牛宮きんぎゅうきゅう)、獅子座(獅子宮ししきゅう)、天秤座(天秤宮てんびんきゅう)、右端は山羊座(磨羯宮まかつきゅう)である。十二星座に括弧書きで十二宮を書き副えたが、天文学上は、歳差現象の所為で十二宮のスタート地点である春分点が毎年東から西へずれているので、十二星座と宮は一致していない。図案に星座を入れなかったのはその事を慮ってのことかも知れない。

 1967年から69年に掛けて南ドイツ地方に伝わる童話やお伽話が切手の題材に使われた。この分野も人気の高い分野で童話文学を主要テーマにして収集を続けている収集家も多い。上段左から「騎士と白い馬」、上段右は「ガラリアの巨人」、下段左は「赤い山羊」、そして下段右は「グレフェンベルクの宝」である。クールボアジェ社のグラビア印刷で製造されている。

 如何にも切手立国らしいリヒテンシュタインの面目躍如となっているのがこの人物切手群である。「郵趣のバイオニア達」と言う表題で1968年から72年に掛けて3回シリーズで8名の人物の肖像が切手となった。此処では4人だけ選んで見たが、一人一人を紹介してエピソードを語るだけでも優に50頁は必要となるから、此処ではごく簡単に名前とその人物の郵趣との関わりだけを紹介するに止める。左端からローランド・ヒル、アーノルド・フィリップ・フェラリ、モーリス・バラス、テオドール・シャンビオンの順である。

 ローランド・ヒルは英国の役人で、切手を柱にした近代郵便制度の提案者であり、その導入に寄与した人物だ。つまり、近代郵便の父である。フェラリはオーストリアの貴族であり、信じ難い程の富豪で、その巨万の富を切手収集に費やした史上最高の切手収集家である。バラスはアルザスの煙草財閥で、彼も切手収集に血眼になった男だ。フェラリの遺品として世界で1枚しかない切手、ギニアの1セントの競売では米国のハインドと最後まで競った話は有名だ。右端のテオドール・シャンビオンはスイス生まれで切手商として名を成した男である。若い頃は自転車競技選手だったと言う別な一面もあった。

 1977年に発行された民族衣装をテーマにしたシリーズもリヒテンシュタインらしさが出ている切手になっている。毎年8月15日に行われる建国祝賀祭には花車と共に街中をこうした民族衣装を着た若い女性達がパレードする光景が見られる。

 1980年12月9日に発行された四季の森を描いた切手は名品との評価を受けたものである。
彫刻凹版とグラビアを組み合わせたザンメル印刷で製造されている。上段左はブナの巨木と若葉を描いた春の森、右は松などの針葉樹が生い茂る夏の森が描かれている。下段の左はシャーン近隣の秋の森の光景である。金色に色付く紅葉が実に美しい。下段左はファドゥーツの北東に位置するオーバープランケンにおける冬の森の光景である。寒々とした刷色が同国の冬の厳しさを如実に表現している。

 1982年に発行されたこの3種セットの切手はリヒテンシュタイン出身の画家、モリッツ・メンツィンガー(1832~1914)の生誕150年に因み発行されたもので、彼自身が描いた国土の風景画を基にしたものだ。左からシュレンベルク、ファドゥーツ、ベンデルンに於ける古昔の風景である。

最終回(2019年12月掲載予定)